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心房細動とは
心房細動は、心臓の上の部屋、心房という部分が細かくふるえる病気です。
心房細動は不整脈の一種で、動悸、胸の不快感や痛み、めまいなどを感じる場合もありますが、自覚症状がない場合もあります。気づかないまま放置されて、突然、脳梗塞(意識消失、手足の麻痺など)や心不全(症状は息切れ、呼吸困難、むくみなど)で発症することもあります。
日本全体で100万人以上が罹患していると言われています。年齢とともに発症しやすくなること、高血圧、糖尿病、多量飲酒、肥満、甲状腺機能亢進症、弁膜症などあると発症しやすくなることが分かっています。
心房細動が及ぼす影響
心房細動では、脳梗塞が年3~5%程度の確率で起こります。また心臓の働きが悪くなる心不全が発症しやすいこともわかっています。
心房細動では、心房の中で血液の流れがスムーズでなくなり(よどむ、感じです)、血のかたまり(血栓、血のり)ができやすい状態になっています。特に高齢者や、高血圧、糖尿病などにかかっていると、心房の内張り(内皮)が傷んでいるため血栓ができやすいことが分かっています。できた血栓が血液の流れに乗って脳に流れて行き、脳の血管を詰まらせると、重い脳梗塞が起こります。心房細動に伴う脳梗塞は重症となる場合が多く、2割弱で死亡、2割弱で寝たきりになる※とされています。
※出典:小林祥泰(著/編集),脳卒中データバンク2009,中山書店,2009
また心拍数が多すぎる状態が長期間続くと、心臓の筋肉(=心筋)の縮む力が弱くなったり、心筋がしなやかに広がることができなくなって、心不全になることがあります。心不全になると息切れやむくみなどの症状が出てきます。悪化すると肺や肺の周囲に水が溜まり、呼吸困難症状が出てきたりします。心拍数が多くなりすぎていなくても、心房細動が出やすくなる背景の疾患、例えば高血圧や糖尿病などが直接の原因となって心不全を発症することもあります。
心房細動の治療
心房細動では、おもに2つの治療を行います。(I)起こってしまっている心房細動に対する治療と(II)心房細動が起こる原因となった病気・要因に対する治療です。
心房細動に対する治療(I)には、おもに2つの治療があります(I-①、I-②)。互いに片方の代わりをすることはできません(どちらかだけでは不十分ということ)。
I-①心臓の動くリズムや動く回数を調節する治療は、さらに2つに分かれます。①-1心房細動が起こった際に極端に脈拍数(心臓の下の部屋、心室が1分間に動く回数と考えてください)が増えないように内服薬を用いる治療、①-2内服薬やカテーテル治療で心房細動が起こりにくくする治療です。
I-②脳梗塞の予防は、血の塊(血栓)ができにくくなるような薬を定期的に内服する治療です。
(II)心房細動が起こる原因となった病気・要因のうち、修正できるものには、高血圧、糖尿病、多量飲酒、肥満、甲状腺機能亢進症などがあります。
割合としても高いのは高血圧です。高血圧があると将来心房細動を発症しやすくなることが分かっています。しっかりと血圧を下げておくことで心房細動の発症率は低下します。また心房細動を発症した場合にも、高血圧があると(特に高血圧が続いていると)脳梗塞が発症しやすいこと、血栓の予防薬を服用している状態でも血圧のコントロールが悪いと脳梗塞・脳出血の確率が高くなることが知られています。
①心臓の動くリズムや動く回数を調節する治療の補足説明
動悸や胸痛・胸部不快感が強い場合は、心臓の動くリズムを調節する治療を行います。
心房細動の不快な症状(動悸、胸の不快感や痛み、めまいなど)が、日常生活に強い影響をおよぼす場合には、心臓の動くリズムを調節する治療を行います。
心房細動が起こったとき(起こっているとき)の心拍数が早く、動悸症状などが強い場合には、心拍数を遅くする内服薬をまずは使用してみます。心拍数を遅くする薬で十分な効果(自覚症状とともに検査値なども含めて)が得られれば、定期通院をしながら経過を診ます。
効果が不十分なら、心臓の動くリズムそのものを調節する抗不整脈薬を使います。正常な脈で打っている心臓が心房細動になる確率を減らす効果や、起こってしまった心房細動を正常な脈に戻す効果があります。複数の種類の薬剤がありますが、自身の体質・心臓の状態にあった薬を探していくことになります(試行錯誤の面もあります)。
カテーテルという細い管を太ももと首などの血管から心臓の中まで通して、心房の筋肉(壁)を焼く治療(=アブレーション治療)を行う場合があります。目的とする心臓の中の部位を焼灼できたかどうかは基本的にすぐにわかりますが、心房細動がどれくらいでない状態にできたかはすぐにはわかりません。通常カテーテル治療後3カ月以降に効果判定をすることになっています。注意しないとならない点は、アブレーション治療を行って、いかにうまく行っているように見えても、根治したという状態にはならないことです。決して安易に血栓の予防薬を止めてはいけません。
心房細動とカテーテルアブレーション治療
カテーテルアブレーションで心房細動は根治しない。
特に重要な点ですので、詳しく解説しておきます。
皆さま、何かの病気が根治したというと、どんな状態を想像しますか?将来的にほとんど再発しない、という状態を想像される方がほとんどだと思います。では心房細動治療を目的としたカテーテルアブレーション治療はどうでしょう。
例えば、カテーテルアブレーションを受けた患者さまが100人いたとします。その後の人生で再発した人が10人、しなかった人が90人という状況を考えてください(この数字は例えです)。あなたが、再発しなかった90人に入れたことが、人生の最後になって初めてわかります。「あー、あなたは再発しない90人に入っていたんですね、前もってはわかりませんでしたが・・・」ということです。
カテーテルアブレーションを受けて、数カ月経過が良いと、主治医の先生から、「もう治りました。根治です。」と言われるかもしれません。しかし、その段階では最後まで再発しない90人に入れるかどうかはわかりません。人生の最後になってやっとわかるのです。前もって90人に入ることが分かっていないのに、根治って言いますか?前もって言えないのに、「アブレーション治療を受けると根治できる可能性がある」、「根治を目指した治療である」と言えるでしょうか??根治という状態(=将来まず再発しないという状態)になっているかどうかを判定する方法がないのです。その判定法がないのに、根治を目指した治療というのは矛盾しているわけです。
心房細動の治療薬
血栓の予防薬はどれも同じ性能ではありません。
心房細動で使用する血栓の予防薬には、60年前から使用されているワルファリンと2011年から相次いで使用できるようになった4つの新規抗凝固薬(DOAC、ドアックと呼ばれています)があります。
ワルファリンは予防効果が実証されている、薬代が安価、治療効果の微調整ができるという良い点があります。問題点としては、納豆を食べることができない、飲み合わせが問題となる薬物がある、脳出血が飲まない場合に比べ増える、採血して効果をみながら内服量を調節しないといけない、などがあります。
4つの新規抗凝固薬はどれも同じ、同じだったらしょっちゅう宣伝に来る会社の薬を使おう、飲みやすい薬だし、患者さまも喜ぶだろうと、安易に薬剤選択をしている方が多いようです。当院では、患者さまに合った薬剤を選べるように注意しながら診療を行っています。